CRIC研究とCKD-JAC研究のコラボレーションで学んだこと

その他

新たなカテゴリーとして「論文紹介」と「その他」を追加しました.「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.

「その他」カテゴリーはネタに困ったときの切り札(?)ですが、主にアメリカに臨床疫学を学ぶために留学していたときのエピソードなどをご紹介して行きたいと思います.

さて、今回は私が2017年から約2年間留学していたPennsylvania大学の疫学・生物統計学部門での経験から学んだことの1つとして、日米のCKD疫学コラボ研究に関してご説明します.

管理者は現在(2020年6月時点)、CKD-JACII研究のデータセンターでデータクリーニングならびに統計解析業務を行っています.これは米国留学中から行っていた仕事で、多岐にわたるデータセットを結合したり、編集したりする中でStataのプログラミングの修得がどうしても必要となりました.

共同研究を行う傍ら、生物統計や疫学の授業をいくつか取らせて貰って勉強しました.

北米の多くのアカデミアでは「R」を使う人が増えてきたとはいえ、依然Stataが授業では主流でした.

授業のレベルは高く、実用的な知識を授けてくれるものが多かった印象です.そこで学んだ内容を自分の研究に組み込みながら、授業中に行われるプレゼンテーションでインストラクターに正しいかどうかを聞きます.

CRIC研究はアメリカを代表する慢性腎臓病コホートで、2001年から始まりました.研究代表者はPennsylvania大学の疫学・生物統計学部門のトップであるHarold I. Feldman先生です.彼は人柄としても優しく、研究者としても一流、そして全米にあるいくつもの研究拠点をまとめ上げる傑出したリーダーシップも素晴らしく、本当に尊敬できる人でした.(彼にまつわるエピソードはまた改めてご紹介します.)

素晴らしいリーダーのもと、観察研究とはいえ莫大な資金をNIHから獲得しており、実に400以上の論文プロジェクトが採択され、high-impact journalにバンバン成果を出しています。毎年2~3回関係者を集めて成果を発表したり、新しいプロジェクトのプレゼンをしたりしており、活気に溢れています。

CRIC 2018のキックオフミーティングの様子。休憩時間にも関わらずそこら中で議論していました。

この研究に参画するというだけでも大変なことなわけですが、そこで自分のやりたいプロジェクトを認めて貰い、論文にするにはいくつものハードルを越えていく必要があります.

試練1.Manuscript proposalの提出

2017年7月にアメリカに到着してまず行ったのは、CRIC Studyのデータを使わせて貰うための研究提案を認めてもらうことでした.

Feldman先生はとっても優しいのですが、学問的な厳密さは決して譲りません.納得がいくまで何度でもディスカッションです.その最初のプレゼンは、

「君の疑問は何だい?」

というものでした.どんな仮説を立てていて、それをどのように証明したいのか、それをとにかくしっかり作らないといけません.主たる要因から結果に至る道筋に、どんな交絡があるのか?日米のどんな違いを見たいのか?それを繰り返し質問されたのを覚えています.毎週火曜の朝8時から1時間ミーティングをしていたのですが、2週起きくらいに練り直しては発表の繰り返しでしたが、結局このProposalを通すだけでも月単位かかりました.

そして次に待ち受けていたのは、同僚達との激しいディスカッションでした.

試練2.Mentee meetingでの議論

Pennsylvania大学の病院に勤務するnephrologistたちもグラントを自分で取って臨床研究をしたりするので、毎週あるいは隔週で行う同僚達と指導者(mentor)を集めたミーティングで2~3ヶ月おきにプレゼンをします.

そこでも熱い議論をかわすのですが、とにかく喋るのが早い.それにまくし立てる.自分の研究以外ではなかなかついて行けずに質問もコメントもなかなか差し挟むことが難しかったです.

とにかく立場関係なく自分が思うことを相手に伝えることがむしろ礼儀という感じでした.建設的な意見を貰うことができましたし、とにかく必死だったのでいい勉強になりました.すごく鍛えられました.

さらに今度は統計専門家とのディスカッションが待ち受けます.

試練3.CSI meetingでの議論

何の略だったのか、今となっては定かではないのですが(笑)、Biostatsと臨床研究実施者との間のミーティングです.

晴れてmanuscript proposalが通って、データを受け取った後、自分で解析を実施しました.そのときに自分が考えた統計モデルの説明をしたり、改良点がないかを相談する機会を得ることができたのでした.

ここでは自分の研究以外でも興味深い話をたくさん聞くことができました.

とにかくその場にいる、ということは何か意見を述べることが最大の貢献でしたので、日本でのミーティングとは随分と違う印象でした.

試練4.電話会議による研究内容のプレゼン

これが最大の難関でした.共著者に名を連ねる先生方に向けてとにかく喋らないといけません.スライドを事前にシェアしたりしてましたが、たいていは目を通してはくれませんので初めから説明です.途中で止められてとにかく常に質疑応答があるので、本当に胃に穴があきそうでした.

ちなみにこの電話会議は論文発表するためのマストですので、避けては通れませんでした.しかし、論文でしか名前を聞いたことがない人と直接自分の研究について話せるというのは非常に贅沢なことだと思います.

試練5.解析実施手順・プログラム・最終データセットの提出

データを解析して論文執筆したらそれで終わり、ということはなく、解析手順書や最終データセットとともにStataのプログラムをすべてBiostatsのスタッフに提出します.解析手順書や実施報告についてはかなり入念にかく必要がありますので、論文をもう一つ書くくらいの気合いが必要でした.

まとめ

臨床研究に関してはやはりアメリカはかなり進んでいました.その日米の違いは単に予算の違いだけではないと感じています.お金がなくても研究に臨む姿勢は輸入できると思っています.透明性、再現性を高めるためにやれることをやっていこうと思っています.

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