ブログレイアウトを変更して少しずつ過去の記事を修正していったせいか、見に来てくださる方の数が増えてきています.ありがたや~.
さて、今回新たなカテゴリーとして「論文紹介」と「その他」を追加しました.「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.
論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.
主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.
「その他」カテゴリーはネタに困ったときの切り札(?)ですが、主にアメリカに臨床疫学を学ぶために留学していたときのエピソードなどをご紹介して行きたいと思います.
さて、最初の論文は、CJASN 15: 600–607, 2020. Chewcharatらの、
“Trajectories of Serum Sodium on In-Hospital and 1-Year Survival among Hospitalized Patients”
です.
1.論文概要
この論文は、単一施設の後ろ向き研究で、入院時の血清ナトリウムが測定されていてしかも最低3回は測定されている、という人を対象としています.
“Group-based trajectory modeling”という方法を用いて入院中の血清ナトリウムの推移を3次関数まで当てはめて、5つのグループに分けています.
- stable normonatremia ー 安定正常ナトリウム
- uncorrected hyponatremia ー 低ナトリウム非補正
- borderline high serum sodium ー 境界型高ナトリウム
- corrected hyponatremia ー 低ナトリウム補正
- fluctuating serum sodium ー 変動ナトリウム
そしてそのグループにおける①入院中死亡、および②退院後1年間の予後について検討しています.①についてはロジスティック回帰を、②についてはCox回帰を当てはめています.
1年後の予後だけみると、変動している人が一番予後不良で、それ以外の群は正常ナトリウム群に比較してリスク20%増くらいです.
実に半数以上の入院患者が何らかのナトリウム異常に分類された、というのもちょっと驚きです.
2.Group-based trajectory modelingについて
この論文で使われている、”Group-based trajectory modeling“という方法の詳細についてはこちらのWeb siteを参照できます.もちろんStataに入れることもできます(後述).
Group-based trajectory modeling は、複数の時点で測定された値の変化のパターンを、独立した軌跡(trajectory)に分類して行く方法です.グループを作りそれぞれの症例がどのグループに入るかの確率を計算し、その高いグループに割り振られます.
Group-based trajectory modeling は、linear(一次), quadratic(二次), and cubic(三次) 関数までの当てはめを行います.Bayesian information criterion(BIC)の値を使って最適な組み合わせを選びます.
このとき、当てはめの関数は最初に指定することになっています.それぞれのtrajectory patternに何次関数までの当てはめをするのかをあらかじめ設定してプログラムを実行します.
3.Stataに入れてみる
Stataに入れるには前述のWeb siteにあるように、インターネット環境でアクセスしてインストールしましょう.
net from http://www.andrew.cmu.edu/user/bjones/traj
net install traj, force
help traj
このhelpをみると事細かにexampleが載っています.アウトカムの確率分布、リンク関数を指定し、従属変数と独立変数をそれぞれ指定する必要があります.
データセットはwide dataである必要があります.時間を横軸にしたい場合は、visit番号を使うこともできます.Syntaxは以下のようになります.
traj [if], var(varlist) indep(varlist) model(modeltype) order(numlist) [additional options]
varとindepがそれぞれ対応している必要があります.
modelは確率分布から選択します.
orderのところに入れる番号で何次関数までの当てはめかという指定を行います.
4.まとめ
入院中のナトリウムの軌跡と予後についての論文でした.ここで使われていたGroup-based trajectory modellingという方法は色々と応用が利きそうです.
しかし関数の当てはめをする以上は、何らかの形がきちんと出るくらいの値の揺らぎである必要がありそうです.直線的に低下するようなeGFRや、visitごとに全く異なる値をはじき出すような血圧などはあまりよくないかもしれません.
教育系やスポーツ系のいくつかの論文ではこの方法を取り入れて実行していました.
まだまだこのコマンドのすべてを把握し切れたわけではないので、続編として改めて統計のセクションででもいつの日か解説できるように準備していきたいと思います.
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