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さて、今回はちょっと面白い研究デザインについて解説したいと思います.
その名も、”Isotemporal substitute model“で、最初に紹介されたのが、Mekaryらによる、”Isotemporal Substitution Paradigm for Physical Activity Epidemiology and Weight
Change” American Journal of Epidemiology 2009; 170: 519-527と思われます.
様々な生活時間から肥満、体重増加に寄与する因子をどのように修飾すればいいのか、という解析が紹介されていました.
日本語では訳が当たっていなさそうなのですが、等時性代替モデル、という感じになるのでしょうか.
ある行動を等量の別の行動に置き換えたときの目的変数への影響を推定する手法
笹井ら. 運動疫学研究 2015; 17(2): 104-12
という定義が日本語では一番わかりやすかったです.もうちょっと図で表現するとしたら、座位時間の40%のうち、10%を中高強度活動時間に5%、低強度活動時間に5%それぞれ変換したときに、アウトカムがどのくらい変化するのか、というのを推定する方法です.
![](https://statakahiro.com/wp-content/uploads/2025/02/image-1024x386.png)
アウトカムとしては筋力、筋肉量、睡眠時間、睡眠の質・満足度、などなど様々あり得ます.
ここで、主たる曝露変数が活動量計などの装置を装着した時間の総量を運動量に応じて運動強度のカテゴリ別に分けることがポイントになります.つまり、
★曝露変数3つの和(座位時間+低強度活動時間+中高強度活動時間)=装着時間 (分/日)
ということです.例えば7日程度の平均をとるようなことがよく見られます.
ここで架空のシナリオを考えてみましょう.
- 架空の事例:加速度計で測定した身体活動と体重の関連を検証した横断研究
- 目的変数:体重 (kg)
- 曝露変数:座位時間 (分/日), 低強度活動時間 (分/日),中高強度活動時間 (分/ 日)
- 交絡変数:性,年齢,教育歴
- 体重と身体活動の関係を重回帰分析により検証する
用いる回帰モデルは非常に単純で、目的変数に応じて線形回帰もしくはロジスティック回帰などを投入します.
変数の投入の仕方については、3つの曝露変数である座位時間,低強度活動時間,中高強度活動時間のうち,1 つを除いてすべて投入 し,加えて装着時間と交絡変数を投入することになります.
例えば、座位時間のみをモデルに投入せず、他のパラメータをすべて入れたモデルにおいて、
中高強度活動時間の回帰係数の解釈は,
(モデルに投入しなかった変数である)座位時間 10 分を,(モデルに含まれる)中高強度活動時間 10 分に置き換えたときの体重の違い
などということになります.
事例1. 身体活動度が睡眠の質に影響するか
どんな風に結果がでてくるのか、実際の論文を見てみましょう.
Open accessの論文で、身体活動は睡眠による休息感を改善するか、というCQを検証したものを紹介します.(Sedentary behaviour and sleep quality. Scientific Reports (2023) 13:1180)
健康診断のアンケート項目で睡眠に関する項目があります.
- (a) 過去1ヵ月間、睡眠によって十分な休息をとることができましたか?
- (b) 過去1ヵ月間、寝つきが悪かったり、夜中に目が覚めたり、朝早く目が覚めたり、よく眠れなかったりしたことがありますか?
三軸加速度計 (Active style Pro, HJA-750C; Omron Healthcare, Kyoto, Japan) を用いて7日間連続のMETsで活動量を分類しています.
研究対象者を限定するために、この活動量計を1日当たり10時間装着した日が4日以上(1日は仕事をしていない日を含む)を満たす人のみとしています.
活動量の定義としては、以下のように決めていました.
- 座位行動(Sedentary behavior):≤ 1.5 METs
- 低身体活動 (Low physical activity):> 1.5 to < 3.0 METs
- 中高強度身体活動(Moderate to vigorous physical activiety):≥ 3.0 METs
結果です.もし座位行動(SB)を中高強度身体活動(MVPA)に替えると睡眠の休息感が0.16有意に改善し、逆だと0.5有意に低下する、という結果でした.
![](https://statakahiro.com/wp-content/uploads/2025/02/image-1-1024x353.png)
事例2.身体活動度とadverse health conditionsとの関連
こちらはLancetに掲載された論文です.由緒正しきUK biobankコホートに登録した対象者の解析から得られた結果です.
研究対象者はなんと36万人あまり.37歳から73歳までの人々です.
Associations of sedentary time and physical activity with adverse health conditions: Outcome-wide analyses using isotemporal substitution model. eClinicalMedicine 2022;48: 101424
45のnon-communicable diseaseの発症とベースラインの身体活動度の関連を見ています.
身体活動度はInternational Physical Activity Questionnaireという調査票を用いています.
Participants who reported 6 h/day compared with ≤ 2 h/day sedentary time had higher risks of 12 (26.7%) of 45 NCDs, including ischemic heart disease, diabetes, chronic obstructive pulmonary disease, asthma, chronic kidney disease, chronic liver disease, thyroid disorder, depression, migraine, gout, rheumatoid arthritis and diverticular disease.
1日6時間以上の座位行動時間がある人は、2時間以下の人に比べて12の疾患の発症リスクが上昇するとのことです.
1時間の座位行動時間を他の活動に振り替えたときの疾患リスクの低下について、Isotemporal substitution modelを用いて推定しています.
![](https://statakahiro.com/wp-content/uploads/2025/02/image-3.png)
DMや睡眠障害に加えて慢性腎臓病も予防効果があるかもしれません.
まとめ
いかがでしたでしょうか?
リハビリ界隈で結構使われている解析のようで、身体活動量などを測定する研究では使えそうです.
今後、Personal health recordの普及に伴って活動量計などを持つ人はますます増えていく可能性があります.
今の行動が将来どんな結果をもたらすかだけでなく、悪い行いを改善するとどれだけいいことがあるのか、というシミュレーションができるような解析がこのIsotemporal substitution modelです.
今後、デジタルツインなどますます議論が活発化していくと思われ、こうした解析のアイディアを取り込んで研究をできればいいのではないでしょうか.
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