SGLT2阻害薬とリアルワールドエビデンス

論文紹介

本カテゴリー「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.

論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.

主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.

なお、内容の是非に踏み込んだコメントも致しますが、本ブログは情報提供だけを目的としたもので、医学的アドバイス(診断、治療、予防)の代わりになるものではありません。また診療目的でのアドバイスやご質問も受け付けておりませんので宜しくお願いいたします.

さて、本日紹介する論文は、最近流行のリアルワールドものです.SGLT2阻害薬の効果をリアルワールドデータで検証しよう、というもので、すでに世界各国でデータベース研究が数多く行われています.

すべてを個々に紹介することは現実的ではないので、代表的なもののみ紹介したいと思います.

1.これまでのSGLT2阻害薬のエビデンスの中心は介入研究

これまでのエビデンスは表題の通り介入研究およびそのサブ解析による仮説提唱が中心でした.

  • EMPA-REG OUTCOME試験 (NEJM 2015): Empagliflozinが心血管病ハイリスク群における心血管複合エンドポイント(心血管死,心筋梗塞,脳卒中)リスクの低減
  • CREDENCE試験 (NEJM 2019): eGFR 30~90mL/分/1.73m2,3,00~5,000 mg/gのアルブミン尿を有する2型糖尿病患者を対象に,canagliflozinが腎アウトカムのリスクを低減
  • CANVAS試験 (NEJM2017): Canagliflozinが心不全入院や心血管死のリスクを低減
  • DECLARE-TIMI58試験 (NEJM 2019): Dapagliflozinが心不全入院や心血管死のリスクを低減
  • DELIGHT試験 (Lancet Diabetes Endocrinol 2019): 日本を含む国際共同研究で、DPP4阻害薬とdapagliflozinで蛋白尿が減少
  • 最近出たばかりのRCT (NEJM2020):Empagliflozin がEF低下した心不全患者の心不全入院と腎機能悪化のリスクを低減

そこにリアルワールドがどうして出てくるのか?

リアルワールドデータのよさは、介入研究のように対象者を限定せずにありのままの臨床データを分析するところにあると思います.例えば透析患者さんなんかは多くの介入研究から外されてしまうのですが、実際に使ってみたら結構いいよ、ということはあり得る話です.介入研究の対象としては外されてしまうけどエビデンスが切望される集団に、一定の意味を与えてくれるという点で重要だと思います.

あるいは、限定された集団で効果が示されたけど現実には一般集団に対してはトータルで悪影響を及ぼしてしまった、ということもあり得ますので、承認された薬の実臨床における意義なんかを事後検証するのもリアルワールドデータの役割だと思います.

2.SGLT2阻害薬のReal-world evidence

  国際共同研究という形を取っているのは、”CVD-REAL”という名の付く、アストラゼネカが支援しているリアルワールドエビデンスが有名です.2020年11月現在、この名を冠した研究が4つあることを確認しました.

  • CVD-REAL試験(Circulation. 2017; 136: 249-259):デンマーク、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国からデータ提供.死亡と心不全入院をアウトカムにその他の経口血糖降下薬と比較してその優越性を示した.
  • CVD-REAL Nordic試験(Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Sep;5(9):709-717):Denmark, Norway, and Sweden.
  • CVD-REAL2試験(JACC2018; 71: 2628):オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、シンガポール、韓国において、心不全、MI、脳卒中などに関してSGLT2阻害薬の有効性を示した論文.SGLT2阻害薬 vs. その他の経口糖尿病薬の比較を行っている.
  • CVD-REAL3試験(Lancet Diabetes Endocrinol. 2020 Jan;8(1):27-35.):Israel, Italy, Japan, Taiwan, and the UKでSGLT2開始前後180日のSlopeの変化をアウトカムとした。副次評価項目は50%減またはESKD。いずれのアウトカムも他のGLTと比較して有意に改善。

ただ、ここでは介入研究の対象となった人達と背景にそれほど大きな違いを感じない印象です.

DPP4阻害薬との比較をする国際比較研究で、東アジアの日本・韓国・台湾の三カ国の共同研究を実施した、EMPRISE East Asia試験(Endocrinol Diab Metab. 2020; 00:e00183.)というのもありました.この研究の論文はPubmedでは検索できません.

介入研究と一致した結果が出た、ということに関しては意味があったと思います.しかし介入研究を越えるほどのインパクトがあったかどうかといわれると、どうかな~と思ってしまいます.

もちろん介入研究よりも迅速に、多くの対象者で同じようなことを検討できるという点では意味があるんでしょうね.

しかし以前の記事でもご紹介したように、介入研究に比較して効果がより大きく出てしまうバイアスがかかりうるという点で注意が必要であると思います.

また、データベース研究の弱点としてアウトカムの信頼性が必ずしも高くないことがあります.

ちょっと想像すればわかると思いますが、何らかの「病名」が付くことをアウトカムとした場合、レセプトの病名だったら必ずしも現実の正しい診断名とは限りません.きちんとした前向きコホート研究の場合ですと症例報告書に記載された情報を元にしてアウトカムを生じているかどうかを判定します.

管理人が関わっているCKD-JAC研究では心血管イベントをイベント評価委員会に諮って判定しています.これには研究結果とは直接関与しない専門家にわざわざ依頼して判定して貰っているので、より信頼性が高い研究と言えます.

大規模データベースでは基本的に個々の患者さんのデータを判定することはせず、多くの場合はアルゴリズムを用いることになります.そのアルゴリズムが妥当なものかどうかはきちんと判定される必要があり、そういった下地となる研究が必須であることがよく理解できると思います.

3.日本からのエビデンス データの出所は??

日本人のデータが含まれる研究としてCVD-REAL2とEMPRISE East Asiaの2つがありますが、これらの研究のデータソースは、Medical Data Visionという会社が集める診療情報です.

CVD-REAL2研究では、糖尿病治療薬の分類は、下の表のように整理しています.この表はつかえそうです.

Drug classATC code
SGLT-2 inhibitorsA10BX09, A10BX11, A10BX12 or A10BD15, A10BD16, A10BD20 (in combination)Updated codes: A10BK01, A10BK02, A10BK03
MetforminA10BA, or A10BD (in combination)
SulfonylureaA10BB
DPP-4 inhibitorsA10BH, or A10BD07, A10BD08, A10BD10 (in combination)
GLP-1RAA10BX04, A10BX07, A10BX10, A10BX14Updated codes: A10BJ01, A10BJ02, A10BJ03, A10BJ05
MeglitinideA10BX02, A10BX03 or A10BD03, A10BD04, A10BD05 (in combination)
TZDA10BG
AcarboseA10BF
Insulins
Short-actingA10AB
Intermediate-acting (isophane)A10AC
Premixed insulinA10AD
Long-actingA10AE

EMPRISE East Asia研究では、アウトカムを以下の様に明示してくれています.

OutcomeDefinitionICD 10 code
Hospitalization for heart failurea        HHF-broad: any inpatient visit with a HF diagnosis code associated HHF-specific: inpatient HF diagnosis that either required the most health care resources, triggered the hospitalization, or was coded as main disease on the DPC hospital claim.I11.0, I13.0, I13.2, I50
All-cause mortalityRecorded from DPC records 
ESRDAny diagnosis or procedure associated withHealth care encounters, includinghospitalizations and specialist outpatient and primary care encounters1.  eGFR<15, at least 2measurements separated by ≥30days (≤12 months)
OR
2.  ≥2 of the following diagnosis or procedure codes (either in/outpatient), separated by ≥30 days 
Diagnoses: disease code 8842116, 8847583, 8848103
Procedures: procedure code 140057810, 140057910, 140058010, 140059310, 140059410, 140059510, 140058110, 140058210,  140058310, 140058410, 140058510, 140058610
OR
3.  Kidney transplant, defined as ≥1of the following diagnosis or procedure codes (in/out-patient):
Diagnoses: disease code 8847618, 9968003, 8847643, 8847671, 8846302, 8835575, 8835577, 8846303
Procedures: procedure code 150338610

これも何かの研究に使えるかも、と思いました.

前回の記事で紹介しましたが、アウトカムをadministrative dataから抽出するためのコード(または組み合わせ)が妥当である必要があります.この研究で検討されている心不全入院については日本のデータでバリデーションされているのである程度の信頼性は担保されていると言えそうです.今後こうした下地となる研究の重要性はますます増してくるでしょう.

まとめ

管理人自身、リアルワールドデータに関する研究基盤を作る仕事に携わっているのですが、諸外国に比べればまだまだ電子カルテの活用がすすんでいないことが問題です.

レセプトデータ、DPCデータ、健診データなどの利活用はそれなりに進んでいて研究を行う土壌がありますが、もう少し世の中にあるhealthcare関連の各種データベースを横串につなぐ体制が整うとよいのになぁと思っています.

しかし同時にそれが研究者のみの利益を考えては進まないだろうとも感じています.理想的な未来に向けて少しずつ歩みを進めていくしかないのでしょうけれどね.

コメント

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