サロゲートエンドポイントについて

疫学

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さて、以前eGFR slopeが代用エンドポイントになり得るか、というテーマで論文を紹介しました.そもそも代用エンドポイントがどのように決まるべきなのか、というところに立ち返ってみたいと思います.なお、今回の記事を書くにあたってはPennsylvania大学のDepartment of Biostatistics, Epidemiology, and Informatics(臨床疫学生物統計学部門)の授業を参考にしました.

1.サロゲートエンドポイントを活用する利点

ICH Harmonised Tripartite Guidelineによると、

Surrogate endpointとは、臨床上のエンドポイントの代わりになるよう意図されたバイオマーカーで、臨床的なベネフィットや害を予測するためのものであるとしています.そしてもしバリデートされたならば、一次エンドポイントよりも早く測定できる、あるいは高頻度に生じるために達成しやすく、患者にとって利益をもたらすことが期待できます.また、疾患の原因病態への理解が進み、介入行為のメカニズムをより深く理解できるようになると期待できます.そして原因域の事象と結果域の事象の関連をサポートするという面もあります.

FDAによる生命を脅かすような疾患に対する期待の治療薬へ早期にアクセスするために、サロゲートエンドポイントを用いた新薬承認という流れを作ってきました.

例えば悪性腫瘍の治療薬については、「腫瘍の縮小」をサロゲートとして承認し、生存解析やQOLを後から示す、といったことです.

2008-2012年54の承認のうち36がサロゲートに基づいていたという報告(Kim et al. JAMA Int Med. 2015;175:1992)があります.

(そのあとで市販後調査やって生存やQOLの確認をすることがセットだったはずですが、アメリカでは1/3で市販後のバリデーションは行われていないという話もあるようですが…)

ともあれ、サロゲートエンドポイントの利点を整理すると、

  • Primaryより容易に到達(早く測定、より頻繁に観測可能、高い予測精度)
  • 患者に有益
  • 疾患のメカニズムの理解が進む
  • 介入のメカニズムの理解が進む
  • Primary associationを強化する

ということになります.

2.サロゲートをどのように決めればいいのか

理想的なサロゲートについてのフレームワークを初めて提唱したのが、Prenticeでした.(Prentice criteria 1989)以下の4つと言います.

  • 治療はSEPに効果がある
  • 治療は真のEPに効果がある
  • SEPは真のEPへの効果と関連する
  • 真のEPへの治療効果はすべてsurrogateを経由する

ただ単に相関している、というだけではサロゲートというには十分ではありません(Fleming 1996).

MI後の死亡のかなりの割合を占めていた不整脈を減らすことを目指したCASTという研究が有名です.臨床的なエンドポイントは心突然死でしたが、不整脈を治療目標に据えていたこのCAST studyでは、予想に反して63人の介入群での死亡がプラセボ群26人よりもはるかに上回る結果となってしまい、早期終了となりました.

このことからもサロゲートを認めるということはそれなりの根拠がなければ一人歩きの危険性を孕むということがわかります.

ちなみにサロゲートがうまくいかないパターンとして、以下の3点があります.

  1. Causal pathway上にない
  2. いくつものCausal pathwayがある
  3. サロゲートを介するpathwayでの効果が見えないが、実際には最終的なエンドポイントに効果がある

3の場合はむしろ効果があるのに効果がない!と誤って結論付けてしまう危険性です.

さて、前述のPrenticeの基準ではあまりにきつすぎる、という批判がでました.そこで、Freedmanが1992年に提唱した次のような統計学的な示し方というのがあります.

  1. 介入とサロゲートの間に交互作用を検定する
  2. 有意な交互作用が合った場合にはそれは有効なサロゲートではない
  3. 交互作用がない場合には、サロゲートで調整した治療の有意性を確認する
  4. サロゲートで調整したあとに介入効果が有意ならば有効なサロゲートではない
  5. 上記いずれも有意でなかった場合、介入効果のどの程度がサロゲートによって説明できるかを求める必要がある

これは以前の記事で取り上げた、mediation analysisにちょっと通じるものがあると思います.で、目安としては以下のようなことが書かれています.

  • effect of SEP=1 – (adjusted β/unadjusted β) これが1に近ければいいが、現実には95%信頼区間の下限が0.5~0.75を超える程度であることがリーズナブル
  • 大きなサンプルサイズが必要
  • unadjusted estimateが0に近いと結果が不安定

また、メタアナリシスによるアプローチについてはBuyceらが最も信頼性が高い方法であると主張しています(Buyse et al 2000).

  • 複数の研究に基づく方法
  • 現在最も信頼性が高い方法とされている

3.メタ解析によるサロゲートエンドポイント(実例)

ここでBuyseらの論文を紹介します.

Buyse et al. Lancet 2000; 356: 373. Relation between tumour response to first-line chemotherapy and survival in advanced colorectal cancer: a meta-analysis.

腫瘍の大きさが減少する=responseがclinical endpointとしたメタ解析で、advanced colorectal cancer患者における、標準的なボーラスによるfluoropyrimidineと、各種実験的に治療による効果を25のRCTから3791名の患者のデータを使用して比較しています.

結果ですが、まずは治療効果がexperimental treatmentが標準治療に比較して良好な結果でした.そして治療効果がtreatment responceで一部説明できることも示されました.

メタアナリシスによる解析方法は、治療⇒サロゲート改善のオッズ比、治療⇒生存率改善のハザード比を使って、HR/ORを計算し、それぞれのStudyをグラフ上にプロットしています.

そしてサンプル数による重み付けをした回帰直線を引くと、OR1の改善に対して0.12のHR改善をもたらすことが推定されました.

しかしこの直線の決定係数は0.38しかなく、一つ一つの研究のレベルで考えると、半分以上のRCTが説明されない、ということになります.

傾きはサロゲートの効果に対する真のエンドポイントに対する効果の大きさを示し、回帰直線からの距離が近ければそのサロゲートの再現性が高いことを表します.

これを見てしまうとちょっと微妙だな~という感じが否めませんね.ということで、サロゲートに対するイメージがなんとなくつかめたでしょうか?これだけを以って新薬の承認をする、というのはやはり厳しい印象を持ちました.

とはいえハードエンドポイントだけでは薬が世の中になかなか出てこないですので、速やかに審査を行い、承認するという流れにおいてはサロゲートは有効なのだと思います.

でもそれだけでは心もとないので、やはり事後できちんと検証することの重要性が理解できます.市販後調査は大事ですね.

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