本カテゴリー「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.
論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.
主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.
なお、内容の是非に踏み込んだコメントも致しますが、本ブログは情報提供だけを目的としたもので、医学的アドバイス(診断、治療、予防)の代わりになるものではありません。また診療目的でのアドバイスやご質問も受け付けておりませんので宜しくお願いいたします.
さて、本日紹介する論文は、Circulation journal 2019に掲載された、
Novel “Predictor Patch” Method for Adding Predictors Using Estimates From Outside Datasets ― A Proof-of-Concept Study Adding Kidney Measures to Cardiovascular Mortality Prediction ―Kunihiro Matsushita, Yingying Sang, Jingsha Chen, Shoshana H. Ballew, Michael Shlipak, Josef Coresh, Carmen A. Peralta, Mark Woodward
をご紹介します.筆頭著者の松下先生は、もともと循環器内科の先生でしたが、大学院で疫学研究を行って渡米、Johns Hopkins UniversityのCardiovascular and Clinical EpidemiologyでAssociate professorをしているスゴい人なのですが、Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium (CKD-PC)という研究グループを牽引するリーダーの1人です.
これまで心血管病のリスクを見積もる方法はいくつかありましたが、「CKD患者はリスク高いよ!」と言っておきながら、スコアリングに入っていなかったということがあり、そうした既存のスコアにPatchをあてるようにCKDの測定値を追加情報で入れることによって予測の精度が上がるのかどうか、ということを検証した論文です.
すでに予測のためのWebsiteまで用意してしまっているあたりがスゴいですね.さらに面白いのは、尿アルブミンがない場合、尿蛋白があれば変換してくれる式まで埋め込まれていて、とても緻密です.
これらの元となっているのはいずれも日本人研究者による論文(もちろんデータは日本のものではないですが…)なので、紹介せずにはいられません.
研究の概要としては、米国の4つ
- Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) study
- Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA)
- National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) III
- NHANES 1999–2010
のコホートを使った研究で、そのうちの1つ(MESA)を使ってモデルを作り、それを他のコホートに当てはめていったというデザインになっています.
従来のCVDのリスク因子(AHA/ACC)としては下記の通りです.
- 年齢
- 性別
- race/ethnicity:white, black, Hispanic, and Asian
- systolic blood pressure (SBP)
- 降圧薬使用
- 糖尿病:FG ≥7.0 mmol/L(126mg/dL), 自己申告による糖尿病歴, 糖尿病治療薬使用中
- total cholesterol (TC)
- high-density lipoprotein cholesterol (HDL-C)
- smoking
ここに尿アルブミンとeGFR (CKD-EPI式で推算)を加えて予測がどうなるかを検証しています.
それぞれのコホートでのベースモデル(eGFRやアルブミン尿抜き)では cardiovascular mortality の予測に対してc-statistic は0.78–0.91でした.
腎機能のPatchをあてると、cross-validated ∆c-statistic は0.006 [0.004–0.008]改善した、というものです.あまりインパクトは大きくないように感じるかも知れませんが、実際にWebsiteをみていろんな値を入れて試してみるとよいかと思います.役に立つ場面はそれなりにあるんじゃないかな~というのが率直な自分の感想です.日本人びいき?
なお、この研究でC-statisticsの比較をしていますが、Stata 14MPを使ったと書いていますので、Stataでもできるはずなのです.しかしこれはどうやらストレートにはできないらしいことがわかりました.
しかし解決できた(と思います)ので、明日の記事でご紹介します.
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