Test-negativeデザインによるブースター接種の有効性

統計

本カテゴリー「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.

論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.

主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.

なお、内容の是非に踏み込んだコメントも致しますが、本ブログは情報提供だけを目的としたもので、医学的アドバイス(診断、治療、予防)の代わりになるものではありません。また診療目的でのアドバイスやご質問も受け付けておりませんので宜しくお願いいたします.

さて、今日ご紹介する論文は、COVID-19のワクチンのブースター接種による変異株への有効性についてです.この論文を読むまで知らなかった、”Test-negative design”を中心に解説をしてみたいと思います.

ご紹介する論文はコチラ↓

Accorsi, et al. Association between 3 doses of mRNA COVID-19 vaccine and symptomatic infection caused by the SARS-CoV-2 Omicron and Delta variants. JAMA 2022; 327: 639-651.

1.論文の概要

  • 目的: ファイザーまたはモデルナのワクチン3回接種と症候性SARS-CoV-2の関連の強さを推定する。そしてその結果はOmicronとDelta株に分けて調査.
  • 研究デザイン・セッティング・参加者:
    • 研究デザイン: Test-negative case-control design
    • 対象者: 18 歳以上でCOVID-19様の症状があってDecember 10, 2021 から January 1, 2022の期間に、national pharmacy-based testing programで検査を行った人
  • 曝露因子: 3回のmRNAタイプのCOVID-19ワクチン接種(検査を行う14日以上前に接種、かつ2回目の接種から6か月以上経過)を曝露因子とし、比較対照は2回接種者または未接種者.
  • 主要アウトカム:症候性COVID-19とワクチン接種状況の関連.これを多項ロジスティック回帰分析を用いて解析

ワクチン効果が発現するにはやはり14日以上経過していなければ、ということで14日以上となっていますが、2回目接種から6か月以上、という条件については住んでいる国、基礎疾患、年齢などによってブースター接種の時期が異なるので一律にしてしまうのはいかがなものかと思いますが….

2.Test-negative designについて

ここで解析方法のところをじっくり読んでみると、multivariable multinomial logistic regressionと書かれています.多項ロジスティック回帰分析?となりませんか?

PCR陽性で症候性であることがアウトカムなら、0/1になりません?と思うわけですが、ここは、exposure of interestである、ワクチン接種状況(3回 vs. 2回 vs. 未接種の3カテゴリー)をアウトカムにするのがこの研究デザインの肝なのです!!下の表をご覧ください.

この手の表は、曝露因子や介入を左側に配置し、アウトカムを上に書きます.

ワクチン接種回数症候性感染あり症候性感染なし (Control)症候性感染なし (本来の無症状者数)
未接種abB
2回cdD
3回efF
Exposureの頭文字は「E」なので、横に配置する、と覚えてます…。

今回はケースコントロールですので、症候性感染ありとなしに分かれています.しかし、このときのコントロールというのは、あくまでPCRテストを受けに来た人の中から選ばれている、という点に注意してください.

COVID-19のテストを受けたい人は何か心当たりがあるから来ますよね.なのでこの表のB,D,Fの人達よりも感染症である事前確率はおそらく高かった人達です.

ここで、割合の計算を感染「割合」を計算するよりもオッズを計算する方が統計学的にスッキリしますので、以後はオッズで表現します.(2022/3/7追記)

未接種者の中での感染ありのオッズを単純にa/bで求めても、「未接種者における感染ありのオッズ」とは言うことができません(a/Bですよね、本来)

2回、3回の接種者で計算しても同様です.

この表での横方向での割り算はできませんが、縦方向はどうでしょう.未接種に対する2回接種のオッズ、つまりb/dは、B/Dと近いものになる、という前提に立っています.これによって外的妥当性を担保しているという言い方もできるかもしれません.

もっとも、ドライブスルー検査を受ける人はワクチン接種回数が少ないとより心配になって受けに来てしまうかもしれません.その場合はちょっとだけb/dのが大きい値になっているかもしれません.あるいは医療へのアクセスに問題があって受診していない、という場合には、ワクチンに対するアクセスも悪いかもしれません.その場合にはB/Dのほうが多いかもしれません.いずれにしてもこの研究で集められないデータになってしまうので、理詰めでいくか、他の研究データを引用しないとディスカッションはできません.

 一方で、症候性感染ありの中ではどうでしょうか?前提としてはワクチンには感染予防効果がある、と思っているので、a/cの値はb/dやB/Dとは比べ物にならないほど大きい値になるのではないでしょうか?

そして、本来比べたいのは、これらのオッズの比(ワクチン接種のオッズ比)です。つまり、a/c ÷ b/d = ad/bc となります.

計算としてはa/b ÷ c/d をやっているのと同じことになりますが、これは症候性感染症のオッズ比と結局同じ式に変形されます.

ワクチン接種のオッズをCaseとControlで求め、その比をとります.

疾患発症疾患非発症
曝露(ワクチン 接種有)AB
非曝露(ワクチン接種無)CD

疾患発症者の中でワクチン接種が行われたかどうかのオッズは、

 A/C

疾患日発症者の中でワクチン接種が行われたかどうかのオッズは、

 B/D

この比をとったオッズ比を1から引いて×100することでVaccine effectivenessを算出するのです.

もう少し具体的に数字を示しながらやってみましょう.

1.ワクチン接種有無×感染症有無の2×2テーブル

ワクチン接種有無と疾患発症の有無で以下のような表を作りました.ここに出ている数字はNEJMのEditorialにでてきたものと同じ数字を使っています.

A/C ÷B/D = 600/4000 ÷20000/16000=0.12

Vaccine effectivenessは、この値を1から引いて100倍することで求めますので、88%となります.

2.今回の論文の集団で計算してみる

今回ご紹介した論文の表を少しだけアレンジして計算しやすくしたデータをお示しします.

変異株の2つは一緒にしてしまっています.

  • 未接種者に対する3回接種の
    • 感染者におけるオッズ:3000/8000
    • 非感染者におけるオッズ:18000/9000
    • 感染者の非感染者に対するオッズ比:3000/8000÷18000/9000=0.1875
    • Vaccine effectiveness=81.3%
  • 2回接種に対する3回接種の
    • 感染者におけるオッズ:3000/12000
    • 非感染者におけるオッズ:18000/20000
    • 感染者の非感染者に対するオッズ比:3000/12000÷18000/20000=0.278
    • Vaccine effectiveness=72.2%

となりますね.

3.仮想的なシナリオを考えてみる

今回ご紹介した論文の数値を少しアレンジする形で、受診行動をとらなかった人達をランダムにピックアップしてきた場合にどうなるのか、ということを考えて以下のように2つの集団想定してみます.

仮想集団①:ワクチン打っているから大丈夫、と思っている集団.ちょっと風邪っぽい症状だけどワクチンを打っているからきっと大丈夫、と思って受診しなかった.

計算すると、未接種者に対する3回接種のワクチン効果は、87.5%となり、より効果大な方向になる.

仮想集団②医療アクセスが不十分な集団.彼らは酷い症状が出た場合にはさすがに受診するかもしれませんが、軽い症状だと受診しなくなるかもしれません.ここに示すほど極端なことになるかはわかりませんが、未接種者に対する3回接種のワクチン効果は、マイナスとなってしまいました.

こういった背景から、なるべく社会的弱者に対して受診が容易なようにしているのかもしれません.

Testing sites were selected by HHS to prioritize access in racially and ethnically diverse communities and areas with moderate-to-high social vulnerability

JAMA. 2022:327(7):639-651

3.使用上の注意

この研究デザインはワクチンの効果を示す研究で実に多用されています.

日本のインフルエンザワクチンの効果を示した論文では、迅速抗原検査をcaseとcontrolの定義に用いていましたが、検査の特異度が低い場合にはVaccine effectiveness(VE)が過小評価されてしまうということが書かれていました.引用文献→Vaccine 2015;33:1313-6

また、通常のケースコントロール研究と比べてこの研究デザインはどうなのか、という疑問について答えた論文もありました.test-negativeな段階で受診をもたらす臨床症状に対してワクチンが効果を及ぼさない限りはバイアスをもたらさないということです.例えば何かのワクチンを使うとアレルギー性間質性肺炎が起こりやすくなるなどの事実があるとした場合、受療行動を歪めてしまいますので、この場合には良くないのだそうです.

Thompsonらが報告した, Effectiveness of Covid-19 Vaccines in Ambulatory and Inpatient Care Settings (NEJM 2021; 385:1355)が掲載されたときにeditorialでこの方法論についての解説がありました.(Dean NE et al. Covid-19 Vaccine Effectiveness and the Test-Negative Design)

ここでは計算方法が具体的に示されていて、わかりやすかったですが、さらに、この研究デザインをみたときに注意すべきことを4つ挙げて紹介していました.

  1. ワクチンを打った人と打たなかった人に存在する、測定されない違いがCOVID-19の発症に影響してないか?(交絡因子):health care-seeking behaviorの違いがワクチン接種の有無と受診行動への動機づけと結びつく可能性がある.
  2. CaseとControlがバイアスなくサンプリングされたか?(サンプリングバイアス)前向きにtest-negative designで組み入れられた場合にはその心配はないが、検査したあと、その結果を見ることができる状況下で感染症状の有無を確認する場合に生じうる.
  3. ワクチン接種状況と感染症状の状況の誤分類の可能性はあるか?(情報バイアス
  4. この結果は受診行動を起こさなかった集団にも適用できるか?(一般化可能性)受診行動を起こさない人達は社会的弱者であり、そういった人達にも適用できるのかどうかをよく考えるべきである.

先に述べた懸念点はまさに4に該当することだと思います.日本ではそれほど大きくないのではないかなと思いますが、果たしてどうでしょうか.

4.まとめ

結局のところ、ブースター接種がもたらす恩恵は、オミクロンやデルタ株においても健在なようです.

この研究のようにTest-negative designを用いた論文はほかにもたくさんあります.上記の注意点に気を付けながら読んでみるのがよさそうですね.

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