リアルワールドエビデンスにおける時間関連バイアス(Circulation 2018)

疫学

本カテゴリー「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.

論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.

主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.

なお、内容の是非に踏み込んだコメントも致しますが、本ブログは情報提供だけを目的としたもので、医学的アドバイス(診断、治療、予防)の代わりになるものではありません。また診療目的でのアドバイスやご質問も受け付けておりませんので宜しくお願いいたします.

さて、本日紹介する論文は、最近流行のリアルワールドものに対する警鐘ともいえる論文(Suissa S. Circulation. 2018; 137: 1432. Reduced Mortality With Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors in Observational Studies: Avoiding Immortal Time Bias. )です.

SGLT2阻害薬の効果をリアルワールドデータで検証した論文における時間関連バイアスについて述べたPerspectivesです.

以前の記事で時間に関連したバイアスの1つである、immortal time biasについてご紹介しましたが、今回の論文ではそのことが問題となって、SGLT2阻害薬の死亡リスク減少に対する効果が増強されているということが指摘されています.

1.RCTとRWEで示されるSGLT2阻害薬の効果の乖離

EMPA-REG OUTCOME randomized trial (Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes) は、合計7000人を超える2型糖尿病患者でCVDを発症したことがある人を対象にした研究ですが、empagliflozin群がプラセボ群と比較して32% reduction in all-cause mortality (hazard ratio, 0.68; 95% confidence interval, 0.57–0.82) であったというものです.

もう一つのCANVAS randomized trials program (Canagliflozin Cardiovascular Assessment
Study) では、10 000人を超える2型糖尿病患者(そのうち66%がCVD既往あり)の研究ですが、canagliflozin群がプラセボと比較して全死亡の減少は13%で有意な減少ではなかったというものです.(hazard ratio, 0.87; 95% confidence interval, 0.74–1.01)

これに対して、CVD-REAL(Circulation.2017;136:249–259.)とEASEL(Circulation. 2018;137:1450–1459.)の2つのReal-world evidence (RWE)では結果が大幅に増強されています.

  • CVD-REAL study (Comparative Effectiveness of Cardiovascular Outcomes in New Users of SGLT-2 Inhibitors): 6か国のSGLT2阻害薬の新規開始者150 000人と、それにマッチしたother antihyperglycemic agents (AHAs)の新規開始者の比較.全死亡のリスクは51%減 (on-treatment hazard ratio, 0.49; 95% confidence interval, 0.41–0.57).
  • EASEL study (Evidence for Cardiovascular Outcomes With Sodium Glucose Cotransporter 2 Inhibitors in the Real World): 12 000の新規SGLT2阻害薬開始者と同数でマッチしたAHA新規開始者で、全死亡リスクを 56%減らしたというもの.(on-treatment hazard ratio, 0.44; 95% confidence interval, 0.35–0.55).

観察研究の場合には一般的に効果が強くでるのですがどうしてここまで違いがでるのか?

その理由としてimmortal time biasの存在を挙げて解説しています.

2.immortal time biasの存在

研究のコホートにおけるベースラインの定義の仕方に問題があるとしています.

EASEL Studyの方では、

New users were defined as patients whose first exposure (index date) to 1 of the non-metformin AHAs during the study period from April 1, 2013, to December 31, 2016, occurred ≥365 days after the start of observation in the database, with no prior exposure to any medication within the same AHA medication class in the prior 365 days. If a patient was a new user of both SGLT2i and non-SGLT2i AHAs, the patient would be classified as an SGLT2i new user, and the non-SGLT2i AHA would be considered a baseline or concomitant therapy.

Circulation. 2018;137:1450–1459.

つまり、SGLT2阻害薬群は、other AHAから変更したものも含みますが、途中から変更した場合もAHA開始した日をベースラインに定めるとしています.

CVD-REAL Studyでは

Patients with T2D (diagnosis codes in online-only Data Supplement Tables I and II) who were newly started on either SGLT-2i or oGLDs were selected from each data set beginning on the date of first prescription or pharmacy dispensation of an SGLT-2i or a new oGLD in each of the countries.

Circulation.2017;136:249–259.

このPerspectiveでは、次の図のような形で示しています.わかりやすいですね.

immortal time biasを乗り越える方法として次のような方法が提案されていました.

  • Poisson-type regression techniques or Cox-type models with time-varying exposure
  • time-conditional propensity scoreでのマッチング

3.First new userに絞った解析にするとどうなるのか?

CVD-REAL2 (Kosiborod et al. JACC 2018; 71: 2628) ではこのようなバイアスの影響を減らすためにfirst new userのみを対象とした解析も追加しています.本解析での全死亡のリスク減は49%であったのに対し、first new userに限定した解析ではリスク減少は35%まで低下しています.

First new user: HR 0.65 [0.60 – 0.71]

New user: HR 0.51 [0.37 – 0.70]

やはりこの結果からみても、immortal time biasの影響は無視できないように思えます.

4.その他の注意すべきバイアス

この論文には書かれていませんが、薬剤疫学研究として、ある特定の薬剤の効果を観察研究で検証した論文を読むときには注意が必要です.

薬剤疫学研究においては, confounding by the reason for prescription (処方理由による交絡, または indication biasともいわれる) が最も重要な交絡です.

医師が薬剤の処方(薬剤の種類や用量等)を決定する際に勘案する患者因子や他の治療因子が結果(イベ ント発生や有効性)と関連する場合に生じる交絡が処方理由による交絡です.

交絡は統計学的に対処できる系統的誤差なので仮に測定されている因子がすべて処方パターンを決定づけるならば対処可能です.しかし現実には言語化することや定量化することが困難だが確かに存在する処方決定要因のようなものはあり得るので最後までこのバイアスはつきものです.

そのバイアスが、効果を弱める方向に働くのであれば頑健な結果であることの証拠として主張できますが、それも決め手に欠く場合が少なくなく、データベース研究の難しさを改めて考えさせられます.

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