時間関連バイアス(Time-related biases)②

疫学

今回も疫学に関する内容です.疫学の知識をもって統計やプログラミングを実践することを目指しましょう。

前回に引き続き、今回は「時間関連バイアス」の続きをやります.なお、今回もPenn大のIntroduction to Epidemiologyという授業内容を元にまとめています.

その授業では、時間関連バイアスには以下の4つがあるとしています.

  1. Immortal time bias: 無イベント生存期間が存在することによるバイアス
  2. Protopathic bias (reverse causality): 因果の逆転
  3. Lead time bias: 早期発見によりイベントの生じにくい期間が存在することによる誤分類
  4. Length time bias: 急激に悪化するような症例が除かれてしまう選択バイアス

このうち前回はimmortal time biasについてじっくり説明してきました.今回は後半線ということで、2~4をとりあげてみたいと思います.

2.Protopathic bias (reverse causality): 因果の逆転

薬剤の害を調べる研究などで時折見られます.何かの薬剤を使用開始⇒何らかの有害事象が発生した、という時間的関係が一見すると成り立っているように見えても、そこには因果の逆転現象が隠れていることがあります.

有害事象(のように見えるイベント)が発生して認識するまでの時間を考えてみましょう.下のように、疾患の準備期間として、要因となる曝露因子に十分な期間曝露される必要があります.次に誰にも気づかれることなく「発症」します.

これを無症状のまま診断するには、

  • 健康診断などのスクリーニングを受けるチャンスに恵まれていること
  • 別の疾患などで医療機関に通院していること

といった状況が曝露群と非曝露群で偏っている場合にバイアスになります.

次に症状がでてから診断に至るには、その人の医療へのaccessibility、健康リテラシー、症状の強さや重篤度などによってスピードが異なりますが、医療機関に受診してもすぐに診断が付くとも限りません.前駆症状が何か別の疾患のように見えて別の疾患に対する治療薬を処方されてしまっていた場合、その治療薬が害悪を及ぼしたかのように見えてしまう可能性があります.

これをProtopathic biasと呼びます.

よく知られた例として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と肺炎の関係です.この研究の中にもこのprotopathic biasの存在を疑わせるような報告があります.

そのイベントが生じた日(index date)から遡って薬剤を開始した日を特定し、何日経過してから発症しているのかを確認します.発症日と曝露の開始時点があまりにも近い場合にはこうしたバイアスの存在が強く示唆されます

対処方法としては、Lag timeを設けるというのがあります.つまりこの期間の曝露はカウントしない、というものです.そのラグタイムをどう設定するかが問題です.

Step 1:曝露開始時点を区切って(通常は1ヶ月単位)、それぞれの時点でのオッズ比を算出

Step 2:Segmental regression analysisを行って最適なラグタイムを推定する(どの時点でプラトーに達するか)

3.Lead time bias: 早期発見によりイベントの生じにくい期間が存在することによる誤分類

先ほどの図の黄色、つまり検査では病気の診断ができるが、自覚症状はまだはっきりしない、という状況を思い浮かべてください.

このような時期に病気が見つかればラッキーなのですが、まじめに健康診断を受けている人なのかどうか、あるいはほかの病気で病院に通院していて何らかの検査を受ける機会に恵まれているかどうか、という要素に影響されて発見のタイミングが早まります.

生存時間分析というのは、病気の発症から死亡までを必ずしも意味しません.病気を見つけた時期がスタートになります.つまり、生存期間が過去に遡って足されることになります.ここで注意したいのは、未来に生存期間が足されるわけではなくても生存期間は延長しているように見えてしまうことです

このように、発見が早く行われることによって過去に遡って生存期間が足されるとき、その時間をリードタイムと言い、このようなことが曝露群と非曝露群において生じてしまうバイアスをリードタイムバイアスと言います.

これを回避するのは前向きのランダム化比較試験なのですが、対照群に対して早期発見することを禁じることになり、倫理的な問題をはらむ可能性があります.

4.Length time bias: 急激に悪化するような症例が除かれてしまう選択バイアス

スクリーニング検査においてはもう一つ注意が必要があります.病気の進行速度を考慮にいれるということです.次の図には病気の進行を表した2つのパターンを表しています.スクリーニングが成り立つ疾患は自覚症状の出現よりも先んじて検査を行って診断の機会を与えてくれることと、発症後に検査を受けに来る身体的時間的余裕を持たせてくれるような進行度合いであることの二つが必要になります.

極端な例で言えば、あまりにも早く進行してしまうと受診するより先に亡くなってしまう可能性がありますよね(パターンB).

このバイアスに関する論理を利用して「がんもどき」なる概念を提唱している人がいます.健診を受けてわかるものはすべてこの「がんもどき」というもので、「本物の癌」は見つかったころにはこの図でいうところのパターンBになっている、という強引な自説を展開しています.この説では「がんもどき」と「本物の癌」の二つの両極端な病気しか存在しない、という点でかなり無理があります.現実にはこの二つの病態の間を埋めるような状態の人が大多数です.(出典:勝俣範之「医療否定本の嘘」(扶桑社))

こうしたバイアスを避けるためにはRCTを行えればよいのですが、なかなか難しいです.医療機関にたどり着く前に亡くなってしまう可能性があるならそういった人を対象として研究を行うことは難しいからです.

曝露群と対照群で偏りがないのであれば、疾患特異的な死亡率を全死亡の代わりにアウトカムにするのもよいでしょう.

あるいは、スクリーニングで診断された症例に対して、症状の出現などで臨床的に診断されたであろうポイントを仮定してそこをスタートにする(modeling of sojourn time)ということも行われるようです.

5.まとめ

時間関連バイアスについてまとめました.immortal time bias、protopathic bias, lead-time bias, length time biasという4つの代表的な時間関連バイアスの特徴を押さえておきましょう.

健診によるスクリーニングの是非については悪性腫瘍を専門にしていないのでもう少し勉強してみようと思いますが、いつの日かこのブログでまとめてみたいと思います.

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