亜鉛摂取と慢性腎臓病について(Clinical Nutrition)

論文紹介

本カテゴリー「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.

論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.

主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.

なお、内容の是非に踏み込んだコメントも致しますが、本ブログは情報提供だけを目的としたもので、医学的アドバイス(診断、治療、予防)の代わりになるものではありません。また診療目的でのアドバイスやご質問も受け付けておりませんので宜しくお願いいたします.

さて、今日ご紹介する論文は、亜鉛摂取と慢性腎臓病発症に関連した韓国からの報告です.

Joo YS, Kim HW, Lee S, et al. Dietary zinc intake and incident chronic kidney disease [published online ahead of print, 2020 Jul 15]. Clin Nutr. 2020;S0261-5614(20)30352-6

Community-based prospective cohort study(前向き住民コホート)であるKoGES (Korean Genome and Epidemiology Study)のデータを用いたものです.アウトカムは観察期間中のCKD発症で、eGFR <60 ml/min/1.73 m2 と定義されています.

曝露因子である亜鉛摂取量はエネルギー1000kcal当りの亜鉛1日量(mg)で、食事調査(semi-qualitative FFQ)によって定義されています.なお、このFFQについては3日間のdiet recordとのvalidationを確認していて、それなりの相関があるようですが、如何せん栄養疫学の知識や感覚が乏しいのでどの程度の精度なのかよくわかりません….それとエネルギー摂取1000kcal当りのmgという表し方をしているのですが、他の研究ではあまりこういう記載を見かけたことがありませんでした.ちなみに我が国で推奨される亜鉛摂取量の目安で参考になるWebサイトはこちら

Statistical analysisによると、

Cox proportional-hazards regression analysis was used to evaluate the relationship between dietary zinc intake and incident CKD development. To test the non-linearity relationship
between dietary zinc intake and incident CKD risk, restricted cubic spline analyses were conducted with log-transformed zinc intake as a continuous variable due to distribution of dietary zinc density.

Statistical analysis

さっそく先日公開したRCSに関連したコマンドがでてきそうですね.しかしノットの位置や数についての記載がありません.

dietary zinc consumption density(1000kcalあたりのmg)の4分位でわけて解析をしていますが、ちょっとわかりにくいので、各群のZn摂取推定量を載せておきますと、

  • Q1. 6.6 ± 2.3
  • Q2. 7.7 ± 2.4
  • Q3. 8.8 ± 2.5
  • Q4. 11.2 ± 4.0

必要とされる1日量は男性で8mg、女性で6mgですので、本当なら男女別にやったほうがよいのかもしれませんが(というかそういう意味でカロリーで割ってるんでしょうかね.)、一番小さいquartileだと不足している人が多そうですね.

全体的によくまとまったいい研究だと思いましたが、統計手法の記載がやや乏しいのがちょっと残念です.結果とともに振り返ってみましょう.

Table 1をみると、亜鉛摂取の少ない群は年齢が高く、教育水準や収入が低く、血圧がやや高いことがわかります.しかし現在喫煙者や飲酒はむしろ高Zn摂取者に多い傾向にあります.また身体活動度は低Zn摂取者のがやや高いという結果です.

多変量解析では一番低い四分位グループがCKD発症多い結果です.多変量解析は4つのモデルを作っていますがどれも結果が一貫しています.

model 1: adjusted for age, sex, eGFR, vitamin & mineral supplement use, and total energy intake.
Model 2: model 1 þ BMI, systolic blood pressure, education, income, diabetes, and cardiovascular disease.
Model 3: model 2 þ C-reactive protein, HDL-C, and HOMA-IR score.
Model 4: model 3 þ smoking status, alcohol consumption, and physical activity

Figure 2ではRCSがでていますが、ここでもノットの位置について言及なしです.

それと、横軸がlog変換後の亜鉛摂取量となっているのでちょっと見づらいです.mylabelsを使ってあげればlog変換値を入れることなく軸ラベルをつけられます.(以前の記事を参照

また、Histogramがハザード比1の線と重なって見えなくなっていますが、この線消えちゃダメでしょ(笑)と突っ込みたくなります.信頼区間とこのreference lineが交差するところから有意になるかどうか判断できますよね.改善の余地ありな図と思います.

Figure 3では層別解析結果をForest plot で示すのも定石通りといえます.(以前の記事参照

追加情報

亜鉛欠乏に対してはノベルジン(一般名:酢酸亜鉛)とプロマック(一般名:ポラプレジンク)の2つの選択肢があります.亜鉛欠乏症に対する治療としては、厳密な意味での保険適応はノベルジンだけになりますが、値段が10倍程度違います.

また、亜鉛補充をし続けていると亜鉛過剰による銅欠乏症を来すことがあって注意が必要です.日本臨床栄養学会が診療指針を出しています.

透析患者さんでは比較的高頻度に存在していると思います.味覚障害が有名ですが、血球減少が前面にでてきた症例を診たことがあります.正~小球性貧血があるようですが、補充中に再度血球減少が生じてきたら銅欠乏あるいは鉄欠乏の二次的な合併も考慮に入れた方が良さそうです.

まとめと雑感

今回の論文より2年遡って同じコホートと思われる報告がありましたが、こちらでは低亜鉛摂取がearly stage CKD(eGFR 45-60)のリスクとなることは示されず、advanced stage CKD(eGFR < 45)のリスクとなることは示されています.同じコホートなのにこちらの先行する報告について何も触れられていないのはどういうことなの??というのもちょっと気になります.(著者の重複はなしなので別研究グループ?)

同じコホートなのに一貫しない結果、それに対する言及がない、という時点で結果に対する信憑性はちょっと怪しいな、というのが正直な感想です.

コメント

タイトルとURLをコピーしました