本カテゴリー「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.
論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.
主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.
なお、内容の是非に踏み込んだコメントも致しますが、本ブログは情報提供だけを目的としたもので、医学的アドバイス(診断、治療、予防)の代わりになるものではありません。また診療目的でのアドバイスやご質問も受け付けておりませんので宜しくお願いいたします.
さて、今日ご紹介する論文は、OSASのCKD発症に対するリスクについてです.
Full KM, Jackson CL, Rebholz CM, Matsushita K, Lutsey PL. Obstructive Sleep Apnea, Other Sleep Characteristics, and Risk of CKD in the Atherosclerosis Risk in Communities Sleep Heart Health Study. J Am Soc Nephrol. 2020;31(8):1859-1869. doi:10.1681/ASN.2020010024
ARIC研究の対象者で、in-home polysomnographyによる評価を行った1500名あまりが対象者となっており、Stage 3以上のCKDの発症をアウトカムとした研究です.
obstructive sleep apnea severity=apneahypopnea index (AHI): normal, <5.0; mild, 5.0–14.9; moderate, 15.0–29.9; and severe, >=30.0 と定義しています.
アウトカムはeGFR <60 かつ25%以上ベースラインより低下をincident CKDとしています.
観察期間中央値がなんと19年!というなが~い観察研究です.そうなんです、ARIC研究というのはAtherosclerosis Risk in Communities の略で、1987~9年にリクルートされたアメリカに住む45~64歳の住民男女15792名をず~っと追いかけているコホートなのです.
Between 1987 and 1989, ARIC recruited and enrolled 15,792 adults aged 45–64 years from four United States communities (Forsyth County, NC; Jackson, MS; suburban Minneapolis,
The ARIC Investigators: The Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) study: Design and objectives. The ARIC investigators. Am J Epidemiol 129: 687–702, 1989
MN; and Washington County, MD) to participate in a prospective, community-based cohort study to investigate the etiology and natural history of atherosclerotic disease.
そのコホートの枝葉研究の1つなのだろうと思います.そのかわり採血の頻度は数年に一度ですので、2ポイントの測定でアセスメントしています.しかしそれではCKD発症はcaptureしきれないので、以下の様に述べています.
Incident CKD was defined by (1) having an eGFR<60 ml/min per 1.73 m2 and at least 25% decline in eGFR from baseline (visit 4) to visit 5 (2011–2013) or visit 6 (2016–2017); (2) diagnostic code (International Classification of Diseases, Ninth and Tenth Revision [ICD-9/10]) for a hospitalization related to CKD stage >3 identified through active surveillance of the ARIC cohort; (3) ICD-9/10 code for a death related to CKD stage >3 identified through linkage to the National Death Index; or (4) ESKD identified by linkage to the US Renal Data System registry.
- eGFR >60 かつ25%以上ベースラインより低下
- ARIC active surveillanceでICD9/10 codeでCKD stage 3以上の病名が付与された入院
- 同様に死亡記録(National Death Index)
- USRDSレジストリーから同定されるESKD
2~4はさすがアメリカだな~という感じですね.日本も他のデータベースとのlinkageがスムーズに行くようになってほしいものです.ここが足かせになって臨床研究が進まないので、頑張って変えて欲しいデス.
で、多変量解析をしてみると、BMIを投入したところでHRが小さくなって、信頼区間が1を跨ぐようになります.こうしたHRの減少のことを、attenuateする、とか表現したりしますが、媒介効果を現す1つの指標だったりします.媒介効果分析についてまとめられたWebサイトによるところの”Difference method”に相当すると思います.交絡の調整によって消えたので直接的な効果はなく、BMIのおかげでこんな風に見えていたんですよ、ということを示しているように見えます.(注:この論文ではmediationについては触れていません)
これをDAGでかくとこんな感じです.OSASとCKDの関係を部分的に肥満が説明してます、といいたいわけです.OSASがBMIに独立したCKD発症リスクとは言えないというわけですね.
オマケにOSASはCKDのリスクとなるような高血圧や心負荷なども起こしますので、そういった要素で調整してしまうことでOSAS→CKDの関連はますます奪われてしまいます.
BMIも従来のCKDリスク因子も調整してしまうことによって、OSASによる睡眠障害とか低酸素状態が、血圧や心血管イベントなどを介さずに腎臓に悪さする分だけを残すことになるので、それが有意な関係を示しませんでした、ということを言っているわけです.しかしBMIを調整する、ということはOSASと肥満が共通して持つリスクも調整することになるので、overadjustingってことにはならないでしょうか?というのが個人的な意見です.(もっとも、BMI高い=obesityなのか、という別の議論もあるでしょうけど)
最終的にはOSASに対する介入が実際にCKD発症を減らしてくれるのかどうか確認するしかないような気がします.
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