SGLT2阻害薬とリアルワールドエビデンス2

論文紹介

本カテゴリー「論文紹介」では管理者の独断と偏見と気まぐれで選んだ論文を解説します.

論文は図表の貼り付けや結果の細かな紹介はできませんが、最小限の結果(abstractで公開されている範囲)を引用する形で紹介していきます。また、図表もそのまま貼り付けることはせず、オリジナルのイメージ図に替えて掲載致します.

主旨としては管理者自らの疫学・統計学・臨床医学上の個人的解釈とし、Stataのコード紹介なども行っていきます.内容の詳細がご覧になりたい場合にはぜひ本文を正式に入手してください.

なお、内容の是非に踏み込んだコメントも致しますが、本ブログは情報提供だけを目的としたもので、医学的アドバイス(診断、治療、予防)の代わりになるものではありません。また診療目的でのアドバイスやご質問も受け付けておりませんので宜しくお願いいたします.

今回は、SGLT2阻害薬のRWEの続編です.なんと日本のデータベース研究から素晴らしい研究が出ましたのでご紹介します.

日本のCKDの大規模データベースである、J-CKD-DB研究からHigh impact paperである、Diabetes careに論文が出ました.

Kidney Outcomes Associated With SGLT2 Inhibitors Versus Other Glucose-Lowering Drugs in Real-world Clinical Practice: The Japan Chronic Kidney Database. Diabetes Care 2021;44:2542

1.研究デザイン

J-CKD-DBに登録された症例の過去起点コホート研究です.

J-CKD-DBは日本中の21の病院が登録している日本を代表するCKDのDB研究です.SS-MIX2に自動的に蓄積され、標準化されたデータを川崎医大に匿名化した上で集めて研究をおこなっています.

参加している施設は主に大学病院です.詳細はJ-CKD-DBのWeb siteをご覧ください.

SGLT-2阻害薬とその他の糖尿病治療薬のいずれかの新規開始(新たに追加)をベースライン時点として、1:1のPropensity score matchingを行っています.

主要エンドポイントはeGFR slope (年間低下率)とし、副次エンドポイントとして、50%のeGFR低下または末期腎不全(eGFR 15mL/min/1.73 m2 未満への低下)のいずれか早い方としています.

このDBでは透析に関する情報がまだ十分に収集できないということで、eGFR 15未満への低下を以て末期腎不全と分類しています.

そしてこの研究ではOn-treatmentとITTでの解析を行っており、前者のタイムフレームでeGFR slopeの研究を、後者のタイムフレームで生存時間分析を行っているという風にかかれていました.

2.対象者の選定の方法とデザインダイアグラム

RWDの解析を行う際に最も重要なのは、どの項目のいつの時点のデータをとってくるのか、ということです.対象者の選択・除外基準を時間軸に合わせて設定することが重要です.

論文ではどのように定義されているでしょうか?

  • データベースに組み込まれてから、はじめてSGLT2阻害薬またはその他の血糖降下薬の処方が発生した時点までに少なくとも1年以上経過した2型糖尿病患者を選択する.⇒Look-back period
  • Index dateをそれらの治療薬を開始した時点(prescription was made or filled)とする.
  • 治療薬の開始については、既存薬に対する追加も開始とする.
  • CVD-REAL3研究に倣って、2型糖尿病であって少なくとも1回のeGFR測定がindex dateよりも180日以前に存在し、さらにそのindex date以前に最初と最後に測定されたeGFRが180日以上空いているものでeGFR変化を算出するために組み入れた.
  • On-treatment analysisにおいてはindex treatmentの終了時点まで追跡した.(薬剤の終了で打ち切り)

Follow-upに関しては、2つの定義が用いられたと書かれています.すなわち、On-treatment follow-up timeと、Intention-to-treat (ITT) follow-up timeということです.

  • 前者については1) index treatmentの終了、2) 新たな血糖降下薬もしくはSGLT2の開始、3) データベースからの離脱や転院、4) データ収集の最終日 のいずれか早いものと定義された.
  • ITT follow-up timeについては、上記の3または4、死亡のいずれか早いものと定義された.
  • On-treatment follow-upでeGFR 変化の解析を行った.(CVD-REAL3研究と同様)
  • ITT follow-up はTime-to-event解析に用いられた.
  • eGFR slope研究では、index date後に少なくとも2回のGFR測定が行われている必要があった.そのうちの1回目がindex dateから120日以内に測定されていて、最終測定までの間隔が180日以上空いているものとした.

また、RWDは、プロトコルの決まった臨床試験と違って、いつ血液検査が実施されるかはわからないので、フレームを決めてかかることがあります.毎月の決まった時点での測定であるかのように、近い時点の値として取り扱うようにかかれていました.

Each monthly time point was represented with the eGFR value closest to the time point of interest, within a defined interval.

原文ママ

どのようにデータを整理するのかを想像してみたのですが、自分だとこんな感じにやるかな~とぼんやりと考えました.

visitという新しい変数にするために、1か月が30.4日だとして、その前半ならその月、後半なら次の月になるようにしてみました.gapはベースラインからの日数です.

qui {
	forvalues n = 1/49 {
		local b`n' = floor(30.4*(`n'-1)+15.2)
		disp "`b`n''" 
	}
	bysort strcase: gen visit = irecode(gap,15,45,76,106,136,167,197,227,258,288,319,349,379,410,440,471,501,532,562,592,623,653,684,714,744,775,805,836,866,896,927,957,988,1018,1048,1079,1109,1140,1170,1200,1231,1261,1292,1322,1352,1383,1413,1444,1474)
}

でもこれだと前後で同じ幅の日が来るはずなので、なるべくその月の基準となる日に近い日を採用するようにするべきでしょうね.優先順位を決めて、取捨選択して最も基準日に近い日を選ぶようなプログラムを組むのかもしれません.今はぱっとは思いつきませんでした.

3.統計解析

eGFRの変化率をどのように前後で比較するか、というところがこの研究の最も重要な部分になります.

Index dateを挟んで混合効果モデルを実行して傾きを出す、ということが書かれていました.

混合効果モデルでは、治療群、時間、時間と治療群の交互作用項を使って個人ごとの傾きを算出することになります.

Correlation structureについてはexchangableまたはcompound symmetryとなっていますが、他の論文を見るとunstructuredのことも結構ありそうなので大きな問題ではないと思います.

eGFR trajectory from preindex to postindex date was displayed graphically over time.

Time zero was indicative of the estimated intercept of the preindex slopes.

The differences between post–index date eGFR slopes for patients taking SGLT2 inhibitors and slopes for those taking other glucose-lowering drugs was assessed using a linear mixed regression model, where treatment group (SGLT2 inhibitors or other glucose-lowering drugs), time (linear), and the interaction between treatment group and time were included as fixed factors.

In mixed models, we used an “exchangeable” (or compound symmetry) correlation structure.

原文ママ

※ここで、混合効果モデルのCovariance structureについての補足です.

Stataのmixedのhelpを開くと、covのオプションで何を入れるかを選択できる、と書かれています.

選択肢は、independent, exchangeable, identity, unstructuredの4つです.どれがどういう意味かについてはあまり詳しく理解していません.

4.結果

結果としては、前後のslopeの差が0.75 [0.51-1.00] mL/min/1.73m2 per yearでした、というとてもきれいな結果.以前の記事を参照ください.

複合腎イベントの発生もハザード比0.40 [0.26-0.61]に抑えています.

おまけに投与してすぐのeGFRはガクンと下がり、その後フラットになる、というここ最近の研究の結果とかなり整合性がとれています.

結果についてはこの記事のスコープ外と思いますので詳しく述べません.あとは論文をじっくり読み込んでください.

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